ツリーピース - 2013.04.22 Mon
PSP「夏空のモノローグ」、
最後の物語、ツリーピースです。

ツリーピースβはともかくとして、
ツリーピースは読む気がしなかったんですよね~(T△T)
第一話を読んでアレなんだもんw
も~切ないというか、
苦しいほどの悲しみが蘇ってくるような・・・・。
ループを超えて、
7月30日を迎えたはずなのに、
彼の記憶が、その素地が、
原点がココにあるとだと思うといたたまれなかったわけですっ!!
本編は「主人公」がメインに描かれていますが、
ツリーピースは「綿森楓」の物語です。
彼がいかに生き、
そしてツリーに取り込まれたか、
それを辿る旅。
彼の「失った記憶」の旅でもあります。
今から30年以上も前、
彼はある研究所に連れてこられました。
それは能科学研究所。
当時の政府は大真面目に「超能力」による研究及び実験を繰り返していたのです。
ある日一大プロジェクトが発動します。
それは「パンドラ計画」。
ギリシャ神話の中で、神の力(火)を盗んだ人間に対し、
神が「贈った」災厄の名「パンドラ」になぞらえた超機密計画でした。
彼はその計画の「パーツ」として、
「一般家庭環境」から召集された人物の一人と考えられています。
「予知」という能力を持った綿森は、
超一級の扱いを受けていました。
時折行われる「検査」や「実験」を除けば、
教育も受けることが出来、
破格の待遇であったといえるでしょう。
しかし・・・・・・・・・、
その環境はある「事件」をきっかけにして一片します。
それは土岐島を襲った「地震」でした。
研究所も例外ではありませんでした。
土岐島の山中にあるとはいえ、
揺れは中心部と同等のものだったと推察されます。
綿森の頭上にも棚が倒れかかってきました。
その時---------、
「棚」は、
不意に姿を消していました。
危機感に襲われた彼は、瞬間、
「・・・・・っ!(棚が消えればいい)」
そう思ったことでしょう。
そうすれば自身は助かると思ったからです。
そして「それ」は思い通りになった。
つまり彼の能力は「予知」ではなく、
「自らの望む未来」へと可能性を収縮させることにありました。
それからというもの、
彼への、周囲の扱いは一変します。
「綿森楓」という名はなくなり、
「03」というコードナンバーで呼ばれるようになりました。
それは周囲の研究員が「彼」に対し、
感情移入をさせないための措置でした。
それほどまでに、彼の「能力」は危険だった。
彼の望む「未来」が、
彼らの望む「未来」である保障など、
どこにもなかったからです。
綿森は逃げ出しました。
いつか、彼らに殺されてしまうかもしれないという恐怖が、
彼を森へと走らせていました。
しかし能力が安定しなかったことも、
彼自身が能力を使いこなせていなかったこともあり、
あっさりと捕まってしまいます。
ほどなくして、
無意識下では綿森の能力が発動しないことが分かった研究員達は、
実験以外の時間、彼を「眠らせておく」ことにしました。
それは1日であったり、3日であったり・・・・、
長い時には一週間、一ヶ月、一年に及ぶこともありました。
時間は綿森の認識を大きく外れ、
光の速さで過ぎ去ってゆくようでした。
そんな時-----------、
綿森は再び逃げ出しました。
今度は周到に準備をし、
彼らが投与するはずの睡眠薬と抑制剤を、
ブドウ糖に替えるという未来にすり変えて・・・・・。
あの日捕まった森の中へと、
再び駆け出していたのです。
ちょうどその頃、
土岐島高校に在籍していた沢野井健太郎は、
森の中で一つの「反応」を追っていました。
アメリカで一時期話題となった「エリア51」。
宇宙人を捕まえて研究しているという眉唾ものの「噂」が、
この土岐島にもあった為です。
国家の絡んでいる大プロジェクト。
沢野井はこの平凡な田舎町に似つかわしくない物々しさでガードされている「研究所」を、
密かにいぶかしんでいました。
あまりにも警備が厳重なため、忍び入る事も出来ません。
そこで彼が行ったのは研究所への物資搬入及び排出のデータでした。
監視は数ヶ月にまたがって行いましたが、
特にコレといった怪しい点は見当たりません。
その内、彼特有の「機転」から飽き始めていた頃----------。
一つの「反応」が研究所からもたらされました。
それは彼がこの森中に張り巡らした発信機からの情報でした。
初めは、一つ。
しかしその一つを追うようにして、
研究所からいくつもの「反応」が出ます。
沢野井はパッドを片手に森へと踏み込んでいました。
そこで見たものとは・・・・・・・・・・?
「主人公」達が見た「特異点」。
「躊躇い」と「希望」が形を成した場所。
それはかつて綿森が沢野井と出会った場所だったのです。
麻酔と抑制剤を打ち込まれた体を引きずって、
そこにある綿森に対し、
沢野井は奇妙な受け答えをしていますが、
彼を土岐島高校の旧校舎へとかくまいます。
彼が何故? そんなことをしたのか?
それがこんな理由だっただなんて・・・・・・っ!
すごく切なかったですね(T△T)
沢野井は「寂しかった」んです。
優秀な研究者だった彼の両親は、
研究に没頭するあまり「息子」である「彼」と関係を持つことが少なかったといいます。
そしてそんな両親を見て育った彼もまた、
研究者として大変優秀ではありましたが、
人との付き合い方はとても不得手だった。
そんな彼が始めて得た「友人」。
それが綿森だったのです。
彼を「宇宙人」と信じたからこそ、
綿森もまた、彼に「真実」を告げる必要がなかった。
それは二人にとって心地よい時間でした。
昼間は旧校舎で本を読み、
夜になると沢野井が食事を持って旧校舎にやってくる。
ほの暗い教室の中で、
ランタンの灯りだけを頼りに、
沢山の話をしました。
それは主に沢野井が語り、
綿森がうなづく程度のものでしたが、
時に沢野井の言葉に綿森がツッこむ場面もありましたw
しかし・・・・・・・・・、
そんな幸せな時間は長く続きません。
ある夜のこと、
ツチノコを捜しに行くという沢野井が連れ出した森の中で、
綿森は彼らに出会います。
黒服に、黒の靴。
それは紛れもなく「研究員」の姿でした。
沢野井に渡された発信機、
それを使うことはついにありませんでした。
研究員は言います。
我々に危害を加えれば、彼を殺す。
我々を殺害すれば、彼を殺す。
君は自らの意思で、研究所に戻らなければならない。
その言葉はまるで「魔法」のように、
綿森の意識を絡めとりました。
きっと、研究員達はずっと前から、
綿森の動向を熟知していたのでしょう。
それでも、彼らは手を出さなかった。
「民間人」である沢野井が共にある間は、
姿を見せなかった。
それは感謝すべきことなのでしょう。
そして同時に、
これほどまでに沢野井に心を開く前に姿を現していれば、
これほどまでに綿森が苦しむ必要も、なかったのかもしれません。
その日以来、
彼はふさぎこむようになりました。
心配する沢野井。
しかし真実を告げる勇気は、綿森にはありませんでした。
そして研究員と「約束」した一週間目---------。
綿森はついに、
自分が「宇宙人」ではないという「事実」を告げます。
自分が「人」ではないこと。
沢野井とは異なる「モノ」だということを、
身を切る思いで告げたのです。
沢野井は反対します。
綿森だけが不幸になることはない。
綿森はここにいて、
幸せそうにしていたではないか。
そう詰め寄ります。
しかし綿森もまた、引くことはしませんでした。
自らの「能力」が確定した頃から始められた「実験」。
その中には「実験動物を殺害する」というものも含まれていました。
自ら「望めば」、
「死」さえも操れる自分という存在に、
一番怯えていたのは綿森でした。
「ありがとう、そして、さようなら」
綿森の手が、沢野井の額にあてられ、
彼はその場に崩れ落ちます。
あるいは、気を失わせた方がよかったのかもしれない。
それが綿森の最後の「躊躇い」だったのでしょう。
彼は自らの足で旧校舎を出、
自らの意思で研究員と共に森に入りました。
暗く、深い森の中-----------。
あの日、
自分は「逃げる」為に走った。
死に物狂いで。
そして今、
同じ道を「戻る」為に歩いている。
心は、落ち着いていました。
不思議なほどに・・・・・・・・・。
しかし----------、
沢野井が諦めるはずがなかったのです。
彼は追ってきました。
消えゆく発信機を頼りに、
必死に彼を追って追って、そして・・・・・・・・・・。
「国」という存在は、まるで空気のようだ。
いつもは目に見えず、
絶えず自らの回りに「存在」している。
ともすれば忘れてしまいがちな「それ」は、
奪われれば死んでしまう。
そんな感覚-------------。
沢野井に向けられた鈍い光。
研究者達の「呪い」のような言葉。
しかし彼らの言葉を打ち消すかのように、
彼らの言葉を「否定」する始めての「友」の言葉は、
綿森にとって甘い甘い「毒」でした。
研究者達は知っていました。
彼がこの先、どれほど苦しむのかを。
「友」を知り、「希望」を知り、「未来」を知った彼が、
それを奪われた時、
否、奪われたと感じた時、
一体どれほどの衝撃が綿森を襲うのか、を----------。
研究者達は恐れていました。
一過性の「感情」に押し流される、
「観測者」と呼ばれるほどの能力を持った人物を。
そして「それ」が抑制出来ない対象であることを、
研究者達は十二分に知っていて、そして同時に恐れたのです。
研究者のうちの一人は、
かつて綿森が連れこれた頃、
教育を施していた人物だったのかもしれません。
彼が唯一、心を開いていた研究員だったのかもしれません。
「彼」は「03」となった綿森の存在を、
それでもある種、「特別」なものとして感じていたのかもしれません。
だからこそ、
彼に「忠告」した。
彼に沢野井と別れるよう、
研究所に戻るよう「促した」のです。
彼の生きる場所は、ここしかないのだと。
彼の生きる場所は、ここにあるのだ、と----------。
しかし同時に、
「研究者」はこの結末をも望んでいたのかもしれません。
沢野井に向けられた切っ先が、
音もなく沢野井を捉えた瞬間・・・・・・・・っ。
沢野井の前でバタバタと、
「彼ら」は倒れていきました。
綿森が望んだ通りに----------。
綿森は恐かった。
自分の能力が。
綿森は恐かった。
自らを見る沢野井の視線が-----------。
追い出された、家。
逃げ出した研究所。そして、
たった一人の「友」からもまた、
彼は逃げ出していました。
逃げて、どうなるものなのか?
どこに逃げればいいのか?
ここではない、どこか。
ここではない、なにか。
ぐるぐるぐるぐる、
思いは巡り、そして-------------。
鈍色の輝きの中に、
「それ」は突然「出現」します。
それはかつて沢野井が熱に浮かされたように語った夢。
ティプラーシリンダー。
白い白い光はやがて彼を飲み込みます。
彼の、唯一の「逃げ場」。
唯一の「ゆりかご」として・・・・・・・・・・・・。
光を前に、
沢野井は何を思ったのでしょう?
泣きながら、
そう、泣きながら「友」に語った言葉----------。
能科学研究所は「実験対象」を失って、
ツリーの研究へと移行されてゆきました。
それは「実験対象」が「出現」させた経緯に付随するものと考えられます。
綿森を「消した」研究所。
そしてその研究所も彼の、「絶対的」拒絶により、いつしか姿を消しました。
その間、沢野井は論文を認めてくれた教授の下、研究に明け暮れ、
やがて結婚し、子供をもうけ・・・・・。
その彼がどんな思いで「研究所」を買い取ったのか?
かつて「彼」が「語ってくれた」非人道的な研究が行われていた場所で、
たった一言を伝える為だけに没頭した沢野井。
それが沢野井宗介へと受け継がれていったのでしょう。
沢野井健太郎の「基点」。
それは紛れもなく「綿森楓」でした。
彼がいたからこそ、
沢野井は人との関係を推し量ることを学び、
妻を、子を、家庭を得ることに成功したと考えても、差し支えないと思うわけです。
30年の時間を経て、伝えられた「彼」の「伝言」。
綿森が忘れてしまった記憶の「欠片」。
それは今も彼と共にあり、
あの旧校舎からそっと、
見守っているに違いないのです。
最後の物語、ツリーピースです。

ツリーピースβはともかくとして、
ツリーピースは読む気がしなかったんですよね~(T△T)
第一話を読んでアレなんだもんw
も~切ないというか、
苦しいほどの悲しみが蘇ってくるような・・・・。
ループを超えて、
7月30日を迎えたはずなのに、
彼の記憶が、その素地が、
原点がココにあるとだと思うといたたまれなかったわけですっ!!
本編は「主人公」がメインに描かれていますが、
ツリーピースは「綿森楓」の物語です。
彼がいかに生き、
そしてツリーに取り込まれたか、
それを辿る旅。
彼の「失った記憶」の旅でもあります。
今から30年以上も前、
彼はある研究所に連れてこられました。
それは能科学研究所。
当時の政府は大真面目に「超能力」による研究及び実験を繰り返していたのです。
ある日一大プロジェクトが発動します。
それは「パンドラ計画」。
ギリシャ神話の中で、神の力(火)を盗んだ人間に対し、
神が「贈った」災厄の名「パンドラ」になぞらえた超機密計画でした。
彼はその計画の「パーツ」として、
「一般家庭環境」から召集された人物の一人と考えられています。
「予知」という能力を持った綿森は、
超一級の扱いを受けていました。
時折行われる「検査」や「実験」を除けば、
教育も受けることが出来、
破格の待遇であったといえるでしょう。
しかし・・・・・・・・・、
その環境はある「事件」をきっかけにして一片します。
それは土岐島を襲った「地震」でした。
研究所も例外ではありませんでした。
土岐島の山中にあるとはいえ、
揺れは中心部と同等のものだったと推察されます。
綿森の頭上にも棚が倒れかかってきました。
その時---------、
「棚」は、
不意に姿を消していました。
危機感に襲われた彼は、瞬間、
「・・・・・っ!(棚が消えればいい)」
そう思ったことでしょう。
そうすれば自身は助かると思ったからです。
そして「それ」は思い通りになった。
つまり彼の能力は「予知」ではなく、
「自らの望む未来」へと可能性を収縮させることにありました。
それからというもの、
彼への、周囲の扱いは一変します。
「綿森楓」という名はなくなり、
「03」というコードナンバーで呼ばれるようになりました。
それは周囲の研究員が「彼」に対し、
感情移入をさせないための措置でした。
それほどまでに、彼の「能力」は危険だった。
彼の望む「未来」が、
彼らの望む「未来」である保障など、
どこにもなかったからです。
綿森は逃げ出しました。
いつか、彼らに殺されてしまうかもしれないという恐怖が、
彼を森へと走らせていました。
しかし能力が安定しなかったことも、
彼自身が能力を使いこなせていなかったこともあり、
あっさりと捕まってしまいます。
ほどなくして、
無意識下では綿森の能力が発動しないことが分かった研究員達は、
実験以外の時間、彼を「眠らせておく」ことにしました。
それは1日であったり、3日であったり・・・・、
長い時には一週間、一ヶ月、一年に及ぶこともありました。
時間は綿森の認識を大きく外れ、
光の速さで過ぎ去ってゆくようでした。
そんな時-----------、
綿森は再び逃げ出しました。
今度は周到に準備をし、
彼らが投与するはずの睡眠薬と抑制剤を、
ブドウ糖に替えるという未来にすり変えて・・・・・。
あの日捕まった森の中へと、
再び駆け出していたのです。
ちょうどその頃、
土岐島高校に在籍していた沢野井健太郎は、
森の中で一つの「反応」を追っていました。
アメリカで一時期話題となった「エリア51」。
宇宙人を捕まえて研究しているという眉唾ものの「噂」が、
この土岐島にもあった為です。
国家の絡んでいる大プロジェクト。
沢野井はこの平凡な田舎町に似つかわしくない物々しさでガードされている「研究所」を、
密かにいぶかしんでいました。
あまりにも警備が厳重なため、忍び入る事も出来ません。
そこで彼が行ったのは研究所への物資搬入及び排出のデータでした。
監視は数ヶ月にまたがって行いましたが、
特にコレといった怪しい点は見当たりません。
その内、彼特有の「機転」から飽き始めていた頃----------。
一つの「反応」が研究所からもたらされました。
それは彼がこの森中に張り巡らした発信機からの情報でした。
初めは、一つ。
しかしその一つを追うようにして、
研究所からいくつもの「反応」が出ます。
沢野井はパッドを片手に森へと踏み込んでいました。
そこで見たものとは・・・・・・・・・・?
「主人公」達が見た「特異点」。
「躊躇い」と「希望」が形を成した場所。
それはかつて綿森が沢野井と出会った場所だったのです。
麻酔と抑制剤を打ち込まれた体を引きずって、
そこにある綿森に対し、
沢野井は奇妙な受け答えをしていますが、
彼を土岐島高校の旧校舎へとかくまいます。
彼が何故? そんなことをしたのか?
それがこんな理由だっただなんて・・・・・・っ!
すごく切なかったですね(T△T)
沢野井は「寂しかった」んです。
優秀な研究者だった彼の両親は、
研究に没頭するあまり「息子」である「彼」と関係を持つことが少なかったといいます。
そしてそんな両親を見て育った彼もまた、
研究者として大変優秀ではありましたが、
人との付き合い方はとても不得手だった。
そんな彼が始めて得た「友人」。
それが綿森だったのです。
彼を「宇宙人」と信じたからこそ、
綿森もまた、彼に「真実」を告げる必要がなかった。
それは二人にとって心地よい時間でした。
昼間は旧校舎で本を読み、
夜になると沢野井が食事を持って旧校舎にやってくる。
ほの暗い教室の中で、
ランタンの灯りだけを頼りに、
沢山の話をしました。
それは主に沢野井が語り、
綿森がうなづく程度のものでしたが、
時に沢野井の言葉に綿森がツッこむ場面もありましたw
しかし・・・・・・・・・、
そんな幸せな時間は長く続きません。
ある夜のこと、
ツチノコを捜しに行くという沢野井が連れ出した森の中で、
綿森は彼らに出会います。
黒服に、黒の靴。
それは紛れもなく「研究員」の姿でした。
沢野井に渡された発信機、
それを使うことはついにありませんでした。
研究員は言います。
我々に危害を加えれば、彼を殺す。
我々を殺害すれば、彼を殺す。
君は自らの意思で、研究所に戻らなければならない。
その言葉はまるで「魔法」のように、
綿森の意識を絡めとりました。
きっと、研究員達はずっと前から、
綿森の動向を熟知していたのでしょう。
それでも、彼らは手を出さなかった。
「民間人」である沢野井が共にある間は、
姿を見せなかった。
それは感謝すべきことなのでしょう。
そして同時に、
これほどまでに沢野井に心を開く前に姿を現していれば、
これほどまでに綿森が苦しむ必要も、なかったのかもしれません。
その日以来、
彼はふさぎこむようになりました。
心配する沢野井。
しかし真実を告げる勇気は、綿森にはありませんでした。
そして研究員と「約束」した一週間目---------。
綿森はついに、
自分が「宇宙人」ではないという「事実」を告げます。
自分が「人」ではないこと。
沢野井とは異なる「モノ」だということを、
身を切る思いで告げたのです。
沢野井は反対します。
綿森だけが不幸になることはない。
綿森はここにいて、
幸せそうにしていたではないか。
そう詰め寄ります。
しかし綿森もまた、引くことはしませんでした。
自らの「能力」が確定した頃から始められた「実験」。
その中には「実験動物を殺害する」というものも含まれていました。
自ら「望めば」、
「死」さえも操れる自分という存在に、
一番怯えていたのは綿森でした。
「ありがとう、そして、さようなら」
綿森の手が、沢野井の額にあてられ、
彼はその場に崩れ落ちます。
あるいは、気を失わせた方がよかったのかもしれない。
それが綿森の最後の「躊躇い」だったのでしょう。
彼は自らの足で旧校舎を出、
自らの意思で研究員と共に森に入りました。
暗く、深い森の中-----------。
あの日、
自分は「逃げる」為に走った。
死に物狂いで。
そして今、
同じ道を「戻る」為に歩いている。
心は、落ち着いていました。
不思議なほどに・・・・・・・・・。
しかし----------、
沢野井が諦めるはずがなかったのです。
彼は追ってきました。
消えゆく発信機を頼りに、
必死に彼を追って追って、そして・・・・・・・・・・。
「国」という存在は、まるで空気のようだ。
いつもは目に見えず、
絶えず自らの回りに「存在」している。
ともすれば忘れてしまいがちな「それ」は、
奪われれば死んでしまう。
そんな感覚-------------。
沢野井に向けられた鈍い光。
研究者達の「呪い」のような言葉。
しかし彼らの言葉を打ち消すかのように、
彼らの言葉を「否定」する始めての「友」の言葉は、
綿森にとって甘い甘い「毒」でした。
研究者達は知っていました。
彼がこの先、どれほど苦しむのかを。
「友」を知り、「希望」を知り、「未来」を知った彼が、
それを奪われた時、
否、奪われたと感じた時、
一体どれほどの衝撃が綿森を襲うのか、を----------。
研究者達は恐れていました。
一過性の「感情」に押し流される、
「観測者」と呼ばれるほどの能力を持った人物を。
そして「それ」が抑制出来ない対象であることを、
研究者達は十二分に知っていて、そして同時に恐れたのです。
研究者のうちの一人は、
かつて綿森が連れこれた頃、
教育を施していた人物だったのかもしれません。
彼が唯一、心を開いていた研究員だったのかもしれません。
「彼」は「03」となった綿森の存在を、
それでもある種、「特別」なものとして感じていたのかもしれません。
だからこそ、
彼に「忠告」した。
彼に沢野井と別れるよう、
研究所に戻るよう「促した」のです。
彼の生きる場所は、ここしかないのだと。
彼の生きる場所は、ここにあるのだ、と----------。
しかし同時に、
「研究者」はこの結末をも望んでいたのかもしれません。
沢野井に向けられた切っ先が、
音もなく沢野井を捉えた瞬間・・・・・・・・っ。
沢野井の前でバタバタと、
「彼ら」は倒れていきました。
綿森が望んだ通りに----------。
綿森は恐かった。
自分の能力が。
綿森は恐かった。
自らを見る沢野井の視線が-----------。
追い出された、家。
逃げ出した研究所。そして、
たった一人の「友」からもまた、
彼は逃げ出していました。
逃げて、どうなるものなのか?
どこに逃げればいいのか?
ここではない、どこか。
ここではない、なにか。
ぐるぐるぐるぐる、
思いは巡り、そして-------------。
鈍色の輝きの中に、
「それ」は突然「出現」します。
それはかつて沢野井が熱に浮かされたように語った夢。
ティプラーシリンダー。
白い白い光はやがて彼を飲み込みます。
彼の、唯一の「逃げ場」。
唯一の「ゆりかご」として・・・・・・・・・・・・。
光を前に、
沢野井は何を思ったのでしょう?
泣きながら、
そう、泣きながら「友」に語った言葉----------。
能科学研究所は「実験対象」を失って、
ツリーの研究へと移行されてゆきました。
それは「実験対象」が「出現」させた経緯に付随するものと考えられます。
綿森を「消した」研究所。
そしてその研究所も彼の、「絶対的」拒絶により、いつしか姿を消しました。
その間、沢野井は論文を認めてくれた教授の下、研究に明け暮れ、
やがて結婚し、子供をもうけ・・・・・。
その彼がどんな思いで「研究所」を買い取ったのか?
かつて「彼」が「語ってくれた」非人道的な研究が行われていた場所で、
たった一言を伝える為だけに没頭した沢野井。
それが沢野井宗介へと受け継がれていったのでしょう。
沢野井健太郎の「基点」。
それは紛れもなく「綿森楓」でした。
彼がいたからこそ、
沢野井は人との関係を推し量ることを学び、
妻を、子を、家庭を得ることに成功したと考えても、差し支えないと思うわけです。
30年の時間を経て、伝えられた「彼」の「伝言」。
綿森が忘れてしまった記憶の「欠片」。
それは今も彼と共にあり、
あの旧校舎からそっと、
見守っているに違いないのです。
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