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2020-04

5-5 夫婦 - 2019.03.11 Mon

ここ数日、惣吉はどこか沈んでいた。
気もそぞろというか、気が散じて稽古にも身が入らない。
原因は分かっている。先日、西郷頼母からの「言伝」である。





もとを正せば、自分が藤田邸に厄介になっているのは西郷頼母が口添えしてくれたおかげだ。
しかも藤田に仕えよ、という命ではない。
己が腕試しの為、西南戦争出陣を乞うたのがすべての発端である。
無知蒙昧。まったくの無謀な願いだったにも関わらず、
頼母はかつての主君、松平容保公を介して藤田五郎を紹介してくれた。
今にして思えば向こうにしても渡りに船だったのであろう。しかし・・・・・、


初めての戦場、命のやり取りを重ねる上で、
己の力がまだまだ未熟であることを知った。
世界は広い。広大な世界にはまだまだ強い男がいくらでもいることを、
藤田を通じて知った。
市井に沈む杉村や内藤も、元は名のある者なのだろう。
彼らの過去を探るつもりは毛頭ないが、それでも、その太刀筋を受ける度に思い知らされるのである。
ところが・・・・・、



その頼母から急に帰還命令が出た。
これ以上「ここ」には置けないというのである。

















突然のことで、惣吉には理解出来なかった。
頼母にとって、自分は物の数にも満たない存在のはずだ。
事実、西南戦争から帰郷して半年以上、何の音沙汰もなかったのである。
それが急に何故・・・・?






ふと、一つ思い当たるフシがあった。
藤田の使いで頼母と連絡をとったあの時・・・・・。






「惣吉さん」



はっ、と。惣吉は振り返った。
夕刻、両袖を脱いで薪割りの最中だというのに、考え事に没頭していたらしい。
振り返ると手で止まっているのを怪訝そうに見ているサチと目があった。



「どうかしたんですか?」



ここ数日、サチは惣吉の異変に気づいていた。
急にはしゃいでいたかと思えば、ふさぎ込んで四半刻もぼうっと空を見つめていることがある。
内藤や杉村にも、それとなく問うてみたが、
何やら通じているものがあるようで「気にすんな」と笑顔で返された。



それでも、サチは気になった。
それは藤田の変化とも時期が重なるからだ。



藤田もまた、ここ数日・・・否、半月ほど様子がおかしい。
何やら思いつめたように考え事をしている時間が増えた。
晩酌をするでもなく、早々に床に入ってしまう為、
サチは問うことが出来ずに居たのである。





「いや、なんでもねぇよ」


「その口調、杉村様に似てきましたね」


「え!? そぉかぁ?! それは嫌だなぁ」


「まぁ! 酷い」




サチはくすくす笑った。


時折、こうして酷く大人びた仕草をするようになった。
太宰府で初めて会った時にはまだ子供と思っていたが、
朝顔の花が開くように、毎朝違う表情をする。
好奇心旺盛だった瞳は憂いを含むようになり、
無邪気な笑みを浮かべる唇には、ぽってりとした色気を含むようになった。


惣吉ももうすぐ二十歳。故郷では所帯を持って、子供の一人や二人いる年である。







「・・・・なぁ、さっちゃん」



惣吉はあえて照れ隠しに、杉村の口調を真似た。



「俺と所帯を持たねぇか?」


「え・・・・・?」



笑みが止まったその先に、人影が見える。
藤田だろう。帰ってきたのかもしれない。
惣吉は構わず続けた。




「俺ぁ頼母様の命でいずれここを出なきゃならねぇ。
 こんな風体の根無し草暮らしだったが、
 国に戻ればお前一人くらい養ってやれる」



どうだ?と、目が問うている。



「そんな・・・、突然・・・・・」



サチは目を泳がせた。
彼女の目に、自分が写っていないことなど百も承知だったが、
それでも、言わないではおられない。



「突然じゃない。太宰府で初めて会った時から、かわいい子だと思ってた。
 けど男のなりをしていたし、太宰府なんて場所に匿われてるのも、
 何か事情があるんだと思ってた」



サチはぎゅっと両の手を握りしめた。
血の気は失せ、節が白く浮いてみえる。
今まで立つこともなかっただろう台所仕事も、立派にこなせるようになった。
嫁としては申し分ない。


惣吉にもそれなりの「事情」があった。
国を飛び出してきたのが14。
以後、一度も帰っていない。
根無し草暮らしの自分のような者が戻ったところで、
継ぐ物はおろか、厄介者扱いされるのが関の山だろう。しかし、
嫁を連れて帰ればどうか?
少なくとも村の外れで小作くらいは出来るかもしれない。
そういう「打算」がなかったとは言えないのである。




「・・・サチが狙われてるのは知ってる。けどそれはここ東京での話だ。
 遠く離れた会津の地なら、その目もごまかせるかもしれないだろ?」



サチ、と呼び捨てにされ、
一瞬、息が止まったかのように胸が高鳴る。



「それは・・・・」




何も知らないサチにとって、惣吉の言葉は魅力的なモノの思えた。
気持ちが揺らぐ。
何より、自分がいることで藤田には一度迷惑をかけている。
自分がいなければ内藤もまた、蝦夷へと戻ることが出来るかもしれないのだ。





「サチ」





逡巡しているところに、藤田が声をかけた。
制服姿である。
サチはびくりと体を震わせた。
恐い顔をしている。
今の話を聞かれてしまったことはもはや明確で、戸惑いは隠せない。




「あ・・・、藤田様。おかえりなさいませ。
 出迎えもせず申し訳ありません」




しどろもどろに対応するサチに、
藤田は、自らもらしくないと思える行動を取った。
それは彼女に近づき、そっと肩に手を置いてたのである。
まるで惣吉に牽制するかのようなその行動に、一番戸惑っていたのは藤田本人だった。




「・・・気にするな。姿が見えないので案じただけだ。
 それより湯の支度をしてくれ。少し汗をかいたのでな」




それは・・・・、つまらない嫉妬だったのかもしれない。
20と13。
この夫婦雛のように一対の二人に対し、
すでに在りし日の青春の面影を追うだけの自分が、
年甲斐もなく苛立っている。
それはたまらなく苦く、そして甘い誘惑だったのである。



「あ、はい・・・っ」



サチは藤田の酷く切なげな笑みに、一瞬、返事を返すことが出来ずにいた。
が、慌てて振り返り、幾本か薪を手にすると逃げるように姿を消した。





「・・・・・盗み聞きとは、大人げないですね」





若い、挑むような瞳が藤田を捉える。





「仲人も立てず妻にとは・・・、明治流というものか」


「俺は欲しいモノは自力で捕まえる質です。
 ・・・何しろ、何の後ろ盾もありませんからね」





嫌味だった。
惣吉は藤田が頼母に入れ知恵をして、
サチから自分を引き剥がそうとしているのだと考えていたのである。
藤田はあからさまなため息をついて、諭すような口調で呟いた。






「お前がどう思おうとかまわんが、
 サチは俺の妻ということになっている」


「だが、妻じゃない」



間髪入れず、惣吉は反論した。



「・・・・そうだ。確かに正式には妻ではない。
 しかし周囲はそう見ている。
 お前の言動一つで、サチの素性に傷がつくということも、忘れるな」







それは、本郷邸にやってきたばかりの頃、
サチが釜を焼いて町役人が飛んできたことがあった。
その折、藤田は女将さん達がサチを「ご新造」と称したことを否定しなかったのである。





まだ旧幕時代の「女敵討ち」が根強く残っていた時代である。
女敵討ちとは浮気した妻の相手を殺すことが可能とされた制度のこと。
武士という身分の下では義務とされていた。
しかし多くは不名誉なこととして内々に処理することが多く、
金銭で片がつくことがほとんどであったという。
中には妻と間男との仲を取り持ってやりたいと願う夫もいたが、
制度上、それが許されるはずもなく、共に殺害されたという悲惨なケースも少なくなかった。
「姦夫姦婦重ねて4つ」とは、
現場を押さえた夫がその場で妻と浮気相手を殺害しても罪に問われなかったことからきている。
1873年、司法卿の江藤新平らにより司法制度が整備され、
明治憲法の下、敵討ち自体は禁止されている。





上記一件以来、サチは(幼いながらも)藤田の妻として周囲に認識されていた。
惣吉が太宰府から帰還したのは後のことで、
人々は彼を雇われ者の小男と勝手に考えていたのである。


惣吉は眼光鋭く藤田を睨みつけた。
こうなることを見越していたとは思わないが、
結果的に藤田の手の内で転がされていたことに、初めて憤りを覚えたのである。
彼は35。経験も、剣の腕も、到底敵う相手ではない。
それを知って尚、挑もうとすら考えるのは一重に彼女の存在あればこそであった。
しかし・・・・・、





今はその時ではない。
惣吉は不承不承、頭を下げて薪を束ねると、袖を通した。
いつの間にかたくましく成長した体が粗末な着物に隠される。
惣吉と入れ違いに、サチが戻ってきた。





「お風呂が沸きました」


「ああ、惣吉を入らせてやってくれ。
 薪割りで汗をかいていようからな」





ふっと、口元を歪めた藤田はどこを見ているのか?
眩しそうに目を細めて佇むばかりだった。






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